Masuk「では、話を聞こうか。この部屋であれば誰も聞き耳を立てられん」
「えっと、お父様。その前に鎧くらいはお脱ぎになったらどうですの?」 「ダメだ。お前の策に見込みがなければすぐに出陣せねばならん。そんな時間はもったいない」あっさりと執務室についてしまって、少しでも時間を稼ごうとしたがダメだった。
くそう、仕方がない。それなら考えながら適当に内容をでっち上げつつ、プレゼンをしていくしかあるまい。会社の企画会議でも、そういうアドリブは得意だった。「ええ、まず、勝利条件を確認しましょう」
「勝利条件? お前を侮辱したイログールイの首ではないのか?」物理的ぃー!
お父様は内政も商売もよくこなすのに、本質的には武人なんだよなあ……。歴史シミュレーションゲームで例えるなら、政治70、知略70、武力90って感じのキャラだ。どこでも活躍できるけれども、戦場でこそもっとも輝くタイプである。「いえ、違います。勝利条件はイログールイ、引いては王家への報復を為すことです。しかし、それは血を以って
よし、いい手応えだ。私の舌も回ってきたぞ。調子が出てきた感がある。
「しかし、真正面から王家を非難したところで、世間からはしょせん王族と貴族のよくある揉め事としか見えないでしょう。いくら理路を整え、正義を訴えたところで、理屈と
お父様は顎髭をしごきながらうなずいている。
色々と計算をめぐらしているのだ。お父様は武人だが、決して話の通じない相手ではないのでやりやすい。それに引き換えあのイログールイの頭の悪さときたら……おっと、いまはそんなことを考えている場合じゃなかった。「して、ならばどうするのだ? 結局のところ武力に訴えるしかないように思えるが。いっそ日時を指定し、会戦を申し込むのか?」
「会戦で勝利を収められればそれに勝ることはありませんが……いくら当家といえども勝ち目は薄いでしょう。そうではなく、影から王家に攻撃を加えるのです」 「ふむ、それで私はそこで、執務室の立派な机をばあんと両手で叩いた。
ここからは、気合と迫力で押し切る!「そこでおすすめなのが今回わたくしが考えた作戦、その名も、プロジェクト『ジャークダー』ですっ!」
「ジャークダー?」 「悪の秘密結社の名前です! 当家とは別名義で悪の秘密結社を結成し、それを使って王家にさまざまな策略を仕掛けます!」これは正義戦隊ジャスティスイレブンに登場する悪の秘密結社の名前だ。ネーミングを考えている暇なんてないから咄嗟に出てしまった。
「それで、策略とは?」
「はじめは簡単なものでよいでしょう。幼稚園バスジャック……じゃなかった、たとえば、王家や王党派貴族の馬車にイタズラをして、重要なパーティや会合に遅刻をさせるのです」 「馬車にイタズラ?」お父様の髭をしごくペースが上がる。
パーティや会合の会場に訪れる順序と時間は非常に重要だ。早く着けば敬意を示すし、しかし同時におもねっているようにも思われる。反対に、遅く着けばそれは相手よりも上位であることを示すが、遅すぎればそれは侮ることになる。馬車が予定時刻につかないとなれば、政治的な思惑がひとつ乱れることになるのだ。 平民からすればひどくくだらなく見えるだろうが、見栄とメンツが支配する貴族社会では決して軽んじることのできない慣習なのである。「面白い。で、他にはどんなことをするのだ?」
「王城の城壁や、貴族の屋敷の塀に落書きをします」 「ほう? どんな落書きだ?」 「なるべく庶民が書いたかのようなくだらない内容がよいでしょう。下手くそな似顔絵や、下品な中傷などを書くのです。ええっと、たとえば――」たとえば……どんなのがいいだろう? まあいいや、勢いで言ってしまえ!
「『イローグルイの色狂い。そのくせ玉無し、甲斐性なし。平民女に
私の言葉を聞いたお父様が、身体を
「くくく、ひひっ……そ、その落書きの内容はいま考えたのか?」
「え? は、はい。いま思いついたままですけれども……」 「いやはや、傑作だ! まさかイザベラの口からそんな野卑なこ、これは褒められているのかな……?
でもたしかに前世の記憶が蘇る前の私だったらこんなアホみたいな悪口は思いつかなかった。前世のSNSじゃくだらない悪口のやり取りがたくさんあったからな……炎上を観戦していたら変な語彙が増えてしまったようだ。 ちなみに、口上役とは戦がはじまる前に先頭に出て、相手を罵倒して挑発したり、味方を鼓舞したりする役目のことである。「いやいや、真剣に褒めておるのだ。雑兵も加わる戦では、いくら中身が優れていようと小難しくては伝わらん。それくらい馬鹿馬鹿しい方が効果的なものなのだ」
「そうなのですか?」 「ああ、そうなのだ。イザベラには貴族令嬢としての教育しかしてこなかったが……たしかにヴラドクロウ家の血を継いでいるのだな! 父は感動したぞ!」お父様は目の端に涙をため、ガシャーンと音を立てて抱きついてきた。
金属鎧を着込んだままなのでがっつり痛い。そのうえ力も強い。とはいえ、ここで振りほどくのはさすがに無粋というものだろう。「許せ、イザベラ。
内乱の危機はひとまず避けられたようで、とりあえずは一安心だ。
これでやっと時間が稼げる。それにしても、悪の秘密結社づくりかあ、前世なら絵空事でしかなかったけど、現世では富も権力もがっつりにぎっている。これ、本当に実現できちゃうんじゃないの?悪の秘密結社づくり。
ちょっとだけ……いや、正直に言おう。めちゃくちゃ楽しみになってきた!!※IFエンドです。 第33話で語られた事件の際、もしもネトリーが踏みとどまっていたら……という場合のストーリーです。 婚約破棄すら発生しない、まるきり別の世界線としてお楽しみください。───────────────────■イフエンド②:きれいなネトリー 警戒心なんて欠片もないマリアンヌの背中。 ネトリーの視界の端に、折れた木の枝が映る。 拾う。 重い。 硬い。 マリアンヌの背後に立つ。 枝が、振り上げられない。 そのまま、固まる。 背後の気配を感じたマリアンヌが振り返った。「どうしたの、ネトリー? 水が冷たくって気持ちいいよ!」「えっ!? あ、ええと、なんでもないよ。それより、手がかりもないところでそんな風に顔を洗ってたら落っこちちゃうよ。ほら、これを杖にして」 拾った枝をマリアンヌに差し出すと、彼女は「ありがとう! でもそれはネトリーが使って!」と断った。 ネトリーは枝を泉に突き刺し、それを掴みながら片手で顔を洗う。 本当だ、冷たくて気持ちがいい。 沸かさずに飲んだって大丈夫そうな水だ。 顔を洗うたびに、何かが流れ落ちていく。 目の腫れが引いていく。 さっぱりした気持ちで立ち上がると、マリアンヌがハンカチを貸してくれた。 * * * ――数年後。貴族学校にて。「きゃー! ネトリー、ひさしぶりー!」「ちょっ、マリアンヌ! 抱きつかないでよ! 田舎者だと思われるじゃない!」「いいじゃない、田舎者なんだし」「私はライブラで1年以上も暮らしてたの! 王都なんかよりもずっと進んだ街なんだから」 貴族学校の門を潜ったネトリーに、薄紫色の髪をした少女が飛びついてくる。 学術都市とあだ名されるライブラの神学校で主席となったネトリーは、留学生として貴族学校に編入することになった。 ネトリーの専門は農学だ。3年前の魔虫の被害で王国が被った被害は甚大だった。実家や、故郷の村々を守るために、この世界の農業を改善したいと思ったのだ。 前世で農業をしていたわけではない。ライトノベルでノーフォーク農法だとかなんだとかを読んだことがある程度で、そんな知識が役立つわけもない。ゼロからの積み上げだ。 今回の留学は、そんな研究姿勢が耳に入ったとある大貴族からの推薦でなったことだ。王家を除けばこの国で一番の権勢を誇るその貴族家は、
※IFエンドです。 最終決戦で思い出した過去がもし〇〇だったら……というやつ。 プロット段階では候補として存在していた世界線となります。 本編とは矛盾する部分が生じますが、細けえことは気にすんな!の精神でお願いします。───────────────────■イフエンド:前世は正義のヒーローでした 幾千、幾万の魔物たちが王都に押し寄せている。 その光景に、頭の芯が灼かれるような既視感をおぼえる。 ――そうだ……あれは、ジャークダーとの最終決戦のあと…… 私は、ジャークダーとの決戦を終えて、ジャスティスイレブンを辞めた。 ジャークダーはたしかに人類に仇なす悪だった。 しかし、決してわかり合えない存在でもなかったはずだとわかってしまったのだ。 ジャークダーにはジャークダーの正義があり、そして仲間同士の友情もあった。 あのマサヨシという戦闘員が、キルレインを身を挺してかばったところで、私は、私の殉じる正義に確信を持てなくなってしまったのだ。 本部にジャスティスバングルを置き、誰にも告げずに行方を眩ました。 身分を詐称し、地方都市のスナックで働きはじめた。 水商売ははじめてだったが、お客さんには意外に可愛がられた。 そのうち常連客のひとりから「うちで働かないか」と誘われ、小さな広告代理店に入社した。 慣れないデスクワークには苦労したが、体力だけは自信がある。 必死で仕事に食らいついた。 そのうち、とある企画を任された。 全国で活躍する正義のヒーローたちのグッズ企画の案件だ。(ここでも正義のヒーローか……) 思わず苦笑いしてしまったが、社運のかかったプロジェクトらしい。 社長に恩返しするためにも、私は寝食も忘れて各地のヒーローについて研究し――ているうちに、すっかりオタク化していた。 それまでずっと「中の人」だったから気が付かなかったが、一歩引いて外から眺めていると、私がかつて信じていた正義もそう捨てたものではなかったらしい。 そして数は少ないが、ジャークダーにもファンがいたことを知った。あの戦いで散った彼らの想いに共感するものがいたのだとわかると、なぜだか救われた気がした。 SNSでぽつりぽつりと彼らの思い出をつぶやくと、意外にも反響を呼んだ。 悪の秘密結社としては異例なことに、ジャークダーのグッズも大量に作られた。そ
ヴラドクロウ家の使用人、パルレ。 長女イザベラ・ヴラドクロウの付き人であり、幼い頃は遊び友達として、長じてからは侍女として仕え続けている。姓がないことからもわかるとおり、彼女は平民の出だ。魔物に襲われた村の生き残りで、ヴラドクロウ家に拾われて育ったのである。 イザベラは昔から破天荒な性格だったが、例の婚約破棄があってからさらに一皮むけた……というかはっちゃけていた。それまで以上に無茶をするようになったし、「トクサツ」とかいうよくわからないことについて語り出すと止まらなくなった。 ショックで変になってしまったのか……と心配したこともあったが、無茶苦茶ではあるものの話を聞くと理屈は通っているから余計に不思議だった。 事実、『プロジェクト・ジャークダー』は大成功を収め、ハレム王家を追い出してこの国の女王に君臨してしまったのだから恐れ入ると言うほかない。 ……しかし、いまのパルレにとって一番の関心事はそんなことではない。「キルレイン陛下! 頼まれていた書類できたっす!」「うむ、ありがとう」「あとついでに街で評判のお菓子を買ってきたっす! 休憩にどうぞっす!」「お、おお、すまないな。あとで頂くとしよう」「すっすすっす」と奇妙な口癖が抜けない全身黒タイツはマサヨシだ。 ジャークダーの平戦闘員だったのだが、イザベラは詳しく語ってくれないが、先の戦で大手柄を挙げたらしい。そのうえ、物覚えがよく読み書き計算もあっという間にマスターした。 そのため、いまでは女王の筆頭補佐官として働いている。生真面目な性格でみんなに好かれており、古参(といってもせいぜい数ヶ月の差だが)の戦闘員たちもマサヨシの大出世を心から祝っていた。 ……そして、そんなこともパルレにはどうでもいい。 パルレはティーワゴンを押して執務室に入った。「お嬢様、お茶を淹れてきました。そろそろ休憩におやつでも……あら、マサヨシさん、いらしてたんですね! わあ、お土産のお菓子まで! よかったら一緒にお茶をいかがですか?」「えっ、いいんすか? キルレイン様は忙しいんじゃ……」「お嬢様もかまいませんよね?」「あ、ああ、もちろんかまわんぞ。ちょうど小腹が空いてきたところだ」 イザベラが真っ赤な顔をぶんぶんと振っている。 十年以上仕えてきたが、こんな表情のイザベラを見るのははじめて
「ああー、マイクテス、マイクテス。本日は晴天なり」 私はバルコニーに設置された《拡声》の魔道具の調子をチェックする。 うむ、音割れもないし、音量も十分だ。 お天気についても定型句ではなく、実際見事な日本晴れだ。 いやもちろん、ここは日本じゃないんだけど。「えー、我が親愛なる『悪の秘密国家ジャークダー』の国民諸君、今日は私の拙い演説を聴きに来てくれて、感謝の極みだ」 群衆から「そんなことはないぞー!」「きゃー! キルレイン様ー!」「太もも見せて―!」などの反応が返ってくる。最後のやつはけしからんな。仕方がない、立ち姿を工夫してギリギリ見えるか見えないかのところまで攻めてやろう――と思ったらパルレに肘で小突かれた。 なんだよう、悪の女幹部にはお色気だって必要なんだぞ。「私が国家元首に就任して早2ヶ月が経った。混沌の魔王ナイアル、そしてイログールイ・ハレムがもたらした悪夢はいまや影も形もなくなり、平和を取り戻せたことをじつにうれしく思っている」 群衆から歓声が湧き上がる。 拳を突き上げて踊っているものまでいる。 まあ……この言葉には多分に嘘が含まれるのだが。 あの戦争で死んだものは多いし、後遺症のあるものもいる。 とくに、魔物の進路上にあった農村はほとんど全滅状態だった。 どれだけ街や村々の復興が進んだとしても、それらの傷が完璧に癒えることはない。傷跡は未来永劫残り続けるのだ。 しかし、区切りというのは重要だ。 こうして「傷は癒えた」と宣言することで、人々はそれを信じることができる。 明日に向かって歩む力を得られるのだ。「就任2ヶ月を記念して……というにはキリが悪いが、今日は3つの発表があって皆に集まってもらった。聞き逃すものがいるといけないからな。少し、静粛にしてくれると助かる」 こう告げると、群衆はすっと静かになった。 うーん、「はい、静かになるまで○秒かかりました―」みたいな小ネタを挟みたかったのだが、そんな暇はないようだ。「本題の前に、改めて確認したい。あの戦争のあと、貴族のみならず平民までもがハレム前王家を拒絶し、私を王として戴くことを選んだ。その選択に後悔があるものがいたら、ここで声を上げてほしい。私はそれを罰さないし、責めもしない。皆の正直な心を知りたいだけだ」 しばらく待つ。 声を発するものはひとりもいない。
「ふふふふふ……あはははははは!」「どうした、11番?」「くくくくく、はーはっはっはっはっ!」「笑うのをやめなさい、11番。懲罰房に入りたいのか?」 先生が、鞭を取り出した。 子どもの私が、怖くて怖くて仕方がなかった鞭。 でも、いまの私にはちっとも怖くない。 なぜなら、いまの私は――「下郎が! この私がそんなくだらぬ脅しに屈すると思ったか!」「な、何を言っているんだ、11番!?」「わけのわからぬ名で私を呼ぶな!」「11番、気でも違ったのか!?」 先生が、一歩、二歩と後ずさる。 それを追って、二歩、三歩と距離を詰める。 腰から鞘ごと《人喰い雄呂血》を抜き、左手で鞘を、右手で柄を握る。「な、何をするつもりだ、11番!?」「そんな名ではないと何度言わせる」「11番でなければ、誰だと言うんだ!? ┓▓*▨か!? イザベラか!?」「どちらでもないっ!」 鞘から黒刃を抜き放ち、上段に構える。「私の名はキルレイン! 武の道に生き! 己が悪を貫き通す! 悪の秘密結社ジャークダーの女幹部、斬殺怪人キルレインだッッ!!」 暗黒刀技――邪刃一閃―― 黒刃を斜めに斬り下ろす。 人喰い雄呂血が先生を両断する。 もろともに、灰色の世界が真っ二つに切り裂かれる。 灰の世界の残骸が細かな粒子となって散っていく。 そのギザギザの切れ目から、世界が元の色を取り戻す。 目の前には、袈裟懸けに斬られて血を吐く魔王ナイアルが立っていた。 視界の端々に、正気を取り戻して立ち上がる怪人と戦闘員の姿が映る。「面妖な術を使いおって。だが、このキルレインに斯様な子ども騙しは通じぬと知れ!」【ぐっ……はは、は……。余の術を子ども騙しとは……言って……くれる……】 魔王は、崩れ落ちて膝をついた。 万華鏡のように輝いていた長髪は、いまは燃え尽きた炭のようにくすんでいる。「ちょ、ちょっとナイアル!? そんな怪我ぐらい治せるでしょ!? あなたは不老不死の魔王なんだから!」 ネトリーが、血泡を吹くナイアルを抱え起こして揺さぶる。【不老不死……? くはは、そんなものを信じていたのか……。人間とは、愚かしい。斬られれ
王都中からかき集めた素材で作った樽爆弾の威力は計算通りだった。 炭、硫黄、硝石、これらで作るのが黒色火薬だ。 硫黄がなかなか集まらなかったので焦ったが、意外なことに銭湯ギルドが持っていたので事なきを得た。温泉風にするため、湯の花を大量に備蓄していたんだそうだ。 集まった素材を超特急で調合した。 前世で刷り込まれた感覚は鈍っていなかったようで、文字通り目をつむっていたって思い通りのものが作れる。匂い、手触り、味。素材の質にバラつきがあろうと、私の感覚は完璧な火薬を作り上げる。 それを樽詰めにしたのがイログールイを吹き飛ばしたものの正体だ。 古釘や鉄片なども適度にブレンドしている。 地面に埋めたのは、指向性を高めて威力を上げるため。 爆発によって生じる衝撃波は、上と横に向かって拡散する性質を持つ。 地面に埋めてやると、逃げ場のなくなった横向きの衝撃波がすべて上に向き、飛躍的に破壊力を増すのだ。 ……思い出したくもなかった前世知識だけど、とにかくいまは役立った。 イログールイの巨体は腹でちぎれて上半身と下半身が泣き別れだ。 時折びくりと震えているが、死後硬直だろう。 異形の魔物に変異したとはいえ、身体を真っ二つに引き裂かれてはひとたまりもなかったようだ。【いまのは何だ? 魔力は欠片も感じなかったが、余があの忌々しい封印に囚われている間に人間どもが発明したのか?】 いまや動かぬ肉塊と化したイログールイの王冠から男が降りてくる。 万華鏡のように色の変わる長髪を風になびかせながら、桃色髪の少女を伴って。「お前が魔王イカか? これでどろどろに溶けるイカっ!」「研ぎ澄ました鋼線よりも鋭い糸で切り刻まれろクモっ!」 テンタが強酸性のイカ墨を吐き、スパイディが鋼線の如き糸を射出する。 しかしそれらは、男の前に湧き上がった極彩色の膜によって遮られた。 不定形のそれは粘体魔獣の変異種だろうか?【ほう、夜の種族がこんなにも生き残っていたとは。ゼッツリンドに呪いをかけ、根絶やしにするよう命じたはずだったのだが……そのような些事もこなせぬ輩に封じられたとは、返す返すも口惜しきことよ】「なっ、我らの父祖が虐殺されたのは、貴様の仕業だと言うのか!?」【なるほど、一応は効果があったのか。そのさまを見届けられなかったのは残念だ】「ほざく







